熱に羽化されて

好きすぎてこじらせたうわ言や思考の整理など

夢にまで現れる名前を追って(タルコフスキーオールナイト)

世界の映画作家シリーズVol. 173

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オールナイトで映画を観ることは何度かしたことがあるけれど、一人で行くのは今日が初めてだった。

池袋にある新文芸坐には、もっぱらオールナイトで行くことが多い。
見逃した作品をハリウッド大作から都内1館しかかかっていなかったような作品まで幅広く均等に扱ってくれる名画座だ。また、特集上映が豊富なのも魅力の一つだと思う。
ただ、私の家からは遠いので、「これぞ!」という作品でないと、中々足を伸ばせない映画館だった。
そして、昨晩がまさに「これぞ!」という演目だった。

アンドレイ・タルコフスキー
今年になるまで彼の名前すら知らなかった。かろうじて『惑星ソラリス』だけ名前だけ聴いたことがあった。
普段観ている映画のジャンルからは程遠い。
それでも彼の作品を観ようと思ったのは、何故か今年に入ってから彼の名前を何度も何度も繰り返し、色々な場所で見かけたからだった。
Twitterで、人の話で、坂本龍一プロデュースの爆音映画祭のラインナップで、インターネットの記事で。
何度も目の前に現れる名前は、何か特別な縁を感じてしまう。
運命と言うには大げさ過ぎるけれど、その時に出会うべくして出会っているのだ、だから手を伸ばすべきだ、と思う。その予感はあんまり外れたことがない。

そして決定的だったのは、映画『レヴェナント』の感想で、何度も彼の名前を目にしたことだった。
レオナルド・ディカプリオ、悲願のアカデミー賞主演男優賞受賞作。他にもたくさんたくさんの賞を獲ったという前評判だけが闊歩したまま、ずっとお預けを食らわされていた。
そんな前評判が光り輝いていた『レヴェナント』は、今年公開した数ある作品を全てすり抜けて、ガツンとこちらを全力で殴りにきた映画だった。
熊に大怪我を負わされても土に埋められても濁流に飲み込まれても、ディカプリオ演じるグラスの中を巡る憎悪が、真っ黒い炎となって真っ白な雪景色の中に立ち昇るような錯覚を覚えた。復讐に生かされている男の迫力に、私は完全に心奪われていた。
そんな『レヴェナント』はタルコフスキー作品へのオマージュである、類似性がある、という感想を見かけて、彼の作品を観てみようと思った所に現れたのが、新文芸坐のオールナイトだったのだ。

 

前置きが長い。

 

この映画を観よう!と思うと、最近はもうあらすじさえ確認せずに何も知らない状態で観ることが多い。
調べるのが面倒くさい、というのも本音だが、もうこれから観るのだから別にあらすじとか知らなくてもいいでしょう、という気持ちになってしまう。
そんなわけで、今回全く何も知らない状態で『ノスタルジア』『ストーカー』『惑星ソラリス』観て来ました。

 

映画感想

ノスタルジア

これが一番好き!火と水を多用する、という話をちらりと聞いていたけれどまさにその通りで驚く。
全編を通して撮影が美しい。光と影のバランスは息を呑む。いつも浮かび上がる生命の色は緑色。
聖母の中から鳥が飛び立つシーンは、レヴェナントにもあったなあ、とぼんやり。
イタリア語で歌われる聖歌が、それまで「音」の連なりとしか認識できなかったのに、字幕が振られた瞬間に「歌」に変貌するのが面白かった。
その後すぐに芸術の翻訳は不可能である、では音楽は?という話が出てきたので、頭の中を覗かれたような気持ち。
歓喜の歌が絶叫に切り替わる壮絶さは凄かった…
ろうそくの火を持って水を渡る、というシーンが大好き!
火は意志だ。水は生命だ。どちらも併せ持つのは人間だけだ。

 

『ストーカー』
禁止された“ゾーン”に魅入られた男たちが何かを渇望して足を進めていく。
“ゾーン”に入っていくまでのわくわく感!あの線路の上を進む小さなハイカー(?)での移動のシーンがすごく美しくて好き。
ゾーンの中が緑に覆われていて、来た者が帰ってこない場所なのに、不思議と生命は息づいているような、しかし花の香りはない無機質さを感じた。
しかし2部の途中で気づいたら意識がなくなっていて、途中でまったく分からなくなってしまったのが哀しい…
面白かったのに!近々リベンジする。絶対だ。

 

惑星ソラリス
宇宙の映像が殆ど無かったのでびっくり。
映される惑星の景色は、立ち込める霧と思考する海ばかり。
それが正体が見えない不安を煽る。
姿の見えない恐怖がずっと立ち込めていて、ものすごくはらはらしながら観ていた。
途中で出てくる立体高速道路、「銀座方面」の文字に日本だということに気づく。

 

全部観終わった感想は、とにかく全てが良かった、ということ。
観に行くかどうするか結構最後まで悩んでいたけれど、スクリーンで観ることが出来て本当に良かった。
『ストーカー』のリベンジは勿論、『鏡』や他の作品も観たい。
思っていたより楽しめたことに驚いた。昔なら意味が分からない、だからつまらない、と結論づけていそうだったから。

 

使われているモチーフとか印象的なこととかメモにしたかったんだけど、万年筆しか取り出せず、全部自分の手の甲に書いた。すごく危ない感じになった。
何度も洗っても完全には落ちなくて、一日経って、ようやく消えた。