熱に羽化されて

好きすぎてこじらせたうわ言や思考の整理など

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』感想

家族にも埋められない孤独を抱えて表現者はそれでも作るのだ。

レフン監督作のネタバレもあります。

 

『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン

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『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』大好き。かわゆみと萌えが詰まってると思いきや物作りをする人間の苦悩と孤独がどんどん浮き彫りになってくる。 #NWR

 

最終日に滑り込みで観て来た。どうやらモーニング&レイトショーという限定上映だったことを行ってから知った。
しかもなんならもうDVDが映画館では販売されていた。本当はDVDスル―の所を配給と劇場が頑張って映画館にかけてくれたんだと思う。ありがたいことこの上ない。

 

あらすじ

映画監督ニコラス・ウィンディング・レフンの監督作『オンリー・ゴッド』の制作現場を、妻であり女優のリブ・コーフィックセンが撮影したドキュメンタリー。撮影直前辺りから、カンヌ映画祭に行くまでの期間、パリ、バンコクコペンハーゲン、カンヌと四カ国に渡って映し出している。
ちなみにレフンのドキュメンタリーを観るのはは二作目。一作目『ギャンブラー  ニコラス・ウィンディング・レフンの苦悩』はプッシャーの特典に入っているのだけど、オーディトリウム渋谷で一日だけかけてくれたので観に行った。こちらの監督はリブではないが、彼女も当然ドキュメンタリーには登場している。

 

かんそう

一作目に比べてお金がある!
前作は『フィアーX』『ブリーダー』の後で、借金まみれでとにかく金がない、金がないと繰り返していたのに、「とりあえずこれだけある」「あとこれだけ金策がある」という安心感!
いや現地で調達してて、直前までこれでいけるか?みたいな博打のような雰囲気があったけれど。
今も尚資金面では苦労するんだなあ…としみじみした。何よりもお金大事…

 

ここに映し出されるレフンは、不安と苦悩に満ちていて、自分勝手にすら見える。
特に映しているのがパートナーなのもあって、俳優やスタッフには見せていない部分が出て来る。
苛立ちを隠さず、焦燥感に苛まれているのはドキュメンタリーならではだし、ここまで自分勝手にすら見える姿を引き出せたのは彼女だからだろう。
自分の撮っている映画の全容や道が見えていなくて、正しいのかが分からないまま進んでいく。
その答えは誰にもあげられない。映画が完成して、観客の目の前に晒されるまでは分からないのだ。
それがものを作ることなのだ、と痛感した。

 

観ている最中、来日したレフンと対談した小島秀夫のことを考えていた。
「ものづくりをしている人は孤独だから、それを分かち合って仲良くなった」みたいなことを言っていて、その時は言葉通り受け取ったのだけれど、この映画を観てその孤独の一端を見た、ような気がした。
作中で編集のマシュー・ニューマンが、撮影した映像を観て「こういう映画が撮りたいんだということが分かった」みたいなこと言ってて、そに対して嬉しくってレフンが泣いてしまった、とごずりんこと主演のライアン・ゴズリングに話すエピソードがあるんですけど、本当に作っている最中の闇と差し込んだ一筋の光のようだった。
映画が分かってもらえるかどうかなんて分からないままでひたすら信じてつくり続けることの辛さよ…映画だけでなく、表現をする人はみんなそういう孤独を抱えているのだと思うのだけれど。
小島さんとはその辺が共鳴したのかな、と思った。
その話に対してごずりんは「俺は?」って訊ねていた。
「いや君も理解しているとは思ってるよ!」と慌てて弁明するレフンがちょっと面白かった。

 

そんな風に、撮影中、そして発表場所のカンヌでもずーっと一緒にいたライアン・ゴズリングにほっとしてしまう。
オンリー・ゴッド』は元々違う俳優がキャスティングされていたが、土壇場でキャンセルし、どうしようとレフンが泣きついたごずりんが、そのまま手を挙げたという経緯がある。
撮影してる間にいるのは勿論なんだけど、そうでない時、親戚のお兄ちゃんみたいに娘達の面倒を見たりしているのがとても良かった。
もうたまらなくかわいくてかわいくて仕方なかった。レフンも色んなシーンがあってかわゆみが止まらなかったけれど、ごずりんと一緒にいると相乗効果ですごい。画面がかわいい。
レフンが真面目に映画について話してるのにふざけてたりもする。
これはレフンとの信頼関係がないとできないことだよなあ、と思う。
彼もまたこの後『ロスト・リバー』を作ったのかと思うと、感慨深い。

 

一方で、監督であるリブ・コーフィックセンの生き方にも胸を締め付けられる。
初っ端からホドロフスキー(映画監督・タロット占い師・レフンの盟友である)がタロット占いをして、リヴに向かって「貴方が旦那(レフン)を支えてあげなきゃ駄目なんだ」と繰り返し言っていて、じゃあリヴはどうするの?と思ってしまった。
夫の仕事についていき、その間自分は仕事が出来ない。
子どもたちの面倒を見る人、になってしまっていて…ありきたりな話だけれど、こんなレフンのような映画を撮る人と、女優であるリブの間でも起こりうる普遍性に、胸がとにかく痛かった。
離婚をすべきか?というリヴの相談もホドロフスキーにしてて「いやぁ…それは良くないと思うよぉ…」って口ごもるホドロフスキーにこの人はレフンの味方だなあって思ったりなどしてしまった。支えてほしいんだよね。きっとね。
「愛を見せてくれよ」「貴方こそ見せないじゃない」というやりとりをこの映画の中で夫妻はしているんだけど、次に作った『ネオン・デーモン』のラストに「♡ LIV」って入れてたの、あれ切実な問題だったんだな…

 

最後に「たかが映画よ。世界の終わりじゃない」っていう娘さんが格好良すぎた。
苦悩がそのまんま映画に出るので、あんまり苦しんでほしくない、楽しく映画を作って欲しい…
そして『オンリー・ゴッド』が好きな私は、ずーっと「つまんないかも…失敗かも…」とスクリーンに映ってるレフンに対して「そんなことないよ!貴方のつくりたいこと、ちゃんと伝わってるよ!」と叫びたくなった。
オンリー・ゴッド』で日本に来た時のティーチイン、あんなに本格的だったものに参加したことないくらいレベルが高かったから、あれでレフンが少しでもホッとしてくれたらいいなあ、と今更改めて思ったりなどした。

 

ものづくりはどこまでも孤独だ。どうしようもない。
それでも彼には素晴らしい師と、パートナーと、友人と、キャストと、スタッフがついている。
良かったね。皆末永く仲良くしててね、でも辛い選択にならないようにね、とえらそうに祈ってしまった。