熱に羽化されて

好きすぎてこじらせたうわ言や思考の整理など

具体的なことはなくても(読書感想『しゃべれども しゃべれども』)

きっかけ

しばらく前に「プロフェッショナル」という番組でいわた書店が取り上げられた回を観た。
北海道にあるその書店は、提出されたカルテを元に店主が一万円分の本を選んでくれる「一万円選書」というサービスがとても人気で、それが取り上げられていた。カルテを送ってくれた人のことを考えながら、その人が求めていそうな本、一方で普段手に取らなさそうな本を混じえて選書をしていた。
この試みはとても人気で、今は受付休止状態らしい。
詳しくはホームページをどうぞ。

最新情報 - いわた書店


その番組を観ている時に『しゃべれども しゃべれども』が取り上げられていた。
特にその本は何度か登場していた。名前は知っていたが、こんなに出てくるなら面白いだろうと思って読んでみることにした。
作者の名前に見覚えがあって、調べたら『一瞬の風になれ』を書かれていた。
こちらも随分前に読んで好きだった記憶。

 

しゃべれども しゃべれども (新潮文庫)

しゃべれども しゃべれども (新潮文庫)

 

 

あらすじ

二ツ目の若き落語家今昔亭三つ葉は、吃音症の従兄弟から話し方を教えてくれと頼まれる。
そこからあれよあれよと教えてほしいメンバーが集まり、三つ葉は話し方教室を開くことに。
自分の芸もいき詰まる中、人の面倒を見ている場合ではないと思いながらも話し方教室は進んでいく。
「話すことが苦手」なことだけが共通点の個性豊かなメンバーたちと、三つ葉の教室と噺は成長するのか?

 

感想

最初の段階だと、吃音症の従兄弟が噺家にあがらずに話せるようにしてほしいと頼むくだりはちょっと『英国王のスピーチ』を思い出した。
この三つ葉という男が創作の世界じゃなきゃ絶対関わりたくないような古風な人間だったのだが、彼もまた一人の悩める男だと思えてからはあまり引っかかりなくするする読めた。彼の一人称で話が進んでいくので、まったく合わないと辛いと思う。
話し方教室に集まるのが美男子のテニススクールコーチの従兄弟、いじめを受けてる関西弁の小学生、頑固な謎めいた女性、悪役豪傑野球解説者と癖が強く、彼らが一向に仲良くならないのが良かった。ピリピリとした緊張感の中で、少しずつ相手を認めたり、譲り合う姿が良かった。ただ、従兄弟の子だけ描かれ方が物足りないというか、落とし所がぼんやりとしたままになっていたので、彼のその後はもう少しだけ読みたい気持ち。他のキャラクターは、この小説が終わってもどこかで頑張っている姿が想像できたので。


落語にはまったく詳しくないのだけれど、作中で自然に説明してくれることが多いので引っかかることはなかった。むしろ色々知ることができた。東京が舞台のため、実際の寄席小屋の名前が出てきてわくわくする。現実と創作の混じり具合が心地よい。 
タイトルの「しゃべれども しゃべれども」というのがうますぎる。これ以上ないほどぴったりで気持ちいい。
確かにもやもやしている人に差し出したくなるような一冊だった。
現状に行き詰まったり、苦しかったりしている人へ決定的な解決策は書いていない。そっと背中に手が触れるか触れないかくらいの寄り添い方だと思う。けれど、それでいいのだ。

で、これ映画化してるんですね。国分太一主演で。
ビジュアルを見たら思い出した。今度機会があれば観てみよう。

 

しゃべれども しゃべれども Blu-ray スペシャル・エディション

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