2020年1月中旬、私は冷や汗をかきながらロンドンに電話していた。もちろん英語で。
「予約したチケットの日付を変更したいんですけど……」
出発する、約3週間前の話である。
2020年ぽっぽアドベント「変わった/変わらなかったこと」主催かつ25日担当のはとです。
今年は総勢75名でお送りしているぽっぽアドベント最終日です。
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今年は、いつの間にか自分にとって特別になっていた場所、The Old Vic(ザ・オールド・ヴィック)という劇場と、それにまつわるあれこれの話をします。
とりとめがなくなってしまったので、気が向いた部分からでも読んでください。
1月、危機一髪
来月に行く観劇の予定が、完全に狂っていた。3年ぶりのロンドン、ウエストエンドで観劇三昧の旅を予定していたが、日程が見事に一日ずつズレている。
時差の勘違い、非常に初歩的なミスである。もう何回海外に行ってるんだ!とどうしようもない体たらくに自分を叱りたくなる。今回は乗り継ぎが長く、丸1日ほどかけて行く行程にしたのが主な敗因だろう。
急遽行われることを知ったイベントに行こうとして、改めて旅程と舞台の予定を見比べていた最中に発覚したミスだった。発覚してよかった。当初の予定で組んでいたチケットでは、一発目の舞台が始まる時間、私はまだヨーロッパ上空を飛んでいることになる。
舞台は一つを除いて、全てATGというチケットサイト*1で購入していた。ATGでは、購入したチケットの日付を変更したい場合は電話をせよとのことだった。こちらは旅の供である妹が電話をしてくれて、チケットの値段の変動は大いにあったものの、事なきを得た。
そして唯一の例外が、The Old Vic Theatreだった。こちらはチケットサイトを通さず、劇場の公式サイトからのみ販売していた。なので連絡も直接劇場にすることになる。
そこで冒頭の話に繋がるのだった。
電話に出たのは恐らく男性で、穏やかで低い声の人だった。
片言の英語で日程の変更を伝えると、席はもうほとんど埋まってるけどどの辺りがいいんだと聞かれた。
「とにかく前!今Old Vicのサイトを見てるんだけど空きがあるこの席!」と言うのが伝わったんだか伝わってないんだか、の雰囲気でチケットを押さえてくれた。
だが、肝心の席番号を口頭で教えてくれない。
教えてくれ!復唱してくれ!とお願いしても「その内変更メールが来るからね、大丈夫だよ」と締めの挨拶*2を一方的に言われて切られた。一抹どころの不安ではなかった。
何故なら、三年ぶりのダニエル・ラドクリフ出演作の舞台のチケットなのだ。推しを観るにあたって、席の位置は非常に重要である。それなら最初から間違えるなよという指摘はちょっと横に置いておく。
一時間ほど経ってようやく来たメールには、ちゃんと私の希望通りの席番号が記されていた。ようやく胸を撫で下ろす。
あの時の電話の相手が、今も元気で、出来ればそのまま働いていることを祈る。
2月、再会
3年ぶりのロンドンは、懐かしさと高揚感で溢れていた。まだ感染症の脅威は見えず、マスクをしている人間はいなかった*3。
今回は5つの公演+αを観る旅だったのだけれど、The Old Vicでの観劇は日程状の都合により1度だけだった。なので、このたった1回が、とてつもなく楽しみだった。
The Old Vicは、ロンドンの南にある複合ターミナル駅であるウォータールー駅から徒歩5分ほどにある、3階建ての劇場だ。1000人ほどのキャパシティがあり、地下にはカフェが併設されている。
およそ殆どの人には馴染みがないだろうが、ナショナル・シアター・ライブの作品で『プレゼント・ラフター』『みんな我が子』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』などが上演されている。これらを映画館で鑑賞したことのある人は、始まる前のインタビューなどで、劇場の外観を目にしたことがあるかもしれない。
ウォータールー駅を出て、南東の方に平坦な道をまっすぐ進んでいくと、だだっ広い交差点にぶつかり、その角にぽつねんとそびえている。
あの景色が開ける瞬間、強烈なライトに照らされているのを見るのが好きだ。ようやくここへ来た!と言う気持ちになる。
この時の私の顔、マジで顔文字と同じだった。
夜にしか来たことがなかったので、今回の記事を書くにあたり、Googleのストリートビューを見たのだけれど、違う道のようだった。
いつも煌々と上演中の作品名が赤いネオンで提示され、ポツンと一つだけ異様に明るい姿は、灯台みたいだなといつも思っていた。近くにあるのは海ではなく川だが……そして川も目視出来る距離にあるわけではないが。
その日の私は、昼に普段頼まないようなグリーンスムージー*4がぶっかかって白いスカートにしみをつけており、一日中歩き回って疲労困憊という、最高とは呼べない状態ではあったが、あの紫色のライトを見たら疲れもぶっ飛んだ。アドレナリンが出るとはこういうことを言うのだ。
興奮というよりは緊張が募りながら、劇場に入って席に着く。今回、殆ど残っていなかった席をなんとか確保したせいで、同行者とは連番ではなかった。なのでいくら緊張していても、始まるまでに気を紛らわすおしゃべりはできない。なんなら隣の人が始まる1分前も携帯をいじっていたので、「申し訳ありませんが私はこの舞台を観るのがとても楽しみでそして今大変ナーバスになっているので、どうか携帯電話の電源を切って鞄に収めてはくれないでしょうか…」というようなことを絞り出して伝えてしまったくらいだ。
隣に座っていたご婦人は、「そんな緊張することないわよ!大丈夫!」と私の肩を叩いて笑っていた。携帯はもう暗くなる瞬間に電源を切って鞄に放り込んでいた。とりあえずは良かった……
なにせ、席は最前列である。
最前列である。
自分と演者の間に、他に何もない。どうしても劇場だと大なり小なり頭かぶりをしてしまうものだけれど、その心配は一切なかった。
3年前、どうしても欲しかった最前列のチケットは、Old Vicの有料会員にならないと取れなかった。悩んで一般会員のままで取れる最前列を取った。そのチケットは、前から三列目の列の中央寄りで、それだって十分に近い距離だった。
ちなみに、同行者はその一列後ろの中央どセンターだった。これはこれで大変見やすい席だったと思うので、本当にあの時のお兄さんには感謝しても仕切れない。
あの時電話してくれたお兄さん、本当ありがとう〜〜〜!!!!
改めて祈りを捧げる。
その状態で観た『ROUGH FOR THEATRE Ⅱ』と『Endgame』はどちらも最高だった*5。
この2作はどちらもサミュエル・ベケットの戯曲である。不条理劇が著作として残されている彼の戯曲は、とにかく難しい。テーマも言葉も難解で、予習をしていったが、完璧に理解しているとは言い難い。それでも素晴らしい作品だったと思う。
作品については、さらりと触れておく。
『ROUGH FOR THEATRE Ⅱ』(邦題:演劇のためのスケッチ2)
ほぼ二人芝居をあんな大きな舞台でどうするんだ、と思っていたが、杞憂に終わった。
まさかのこちらの予習が抜け落ちていたため*6、ちょっと呆然としながら観ていた。やってることや言ってる意味は分かったとしても、どうして二人がそんな状況にいるのかが全然わからないのだ。
ランプのついた机が二脚、舞台の中央寄りに配置され、その真ん中の奥に大きな窓があり、男が背中を向けている。
そこにスーツ姿のダニエル・ラドクリフとアラン・カミングが入ってきて、窓際に立っている男の処遇やアリバイを話していく、という筋書き。
二人のやりとりが面白いのだが、入れ替わり立ち替わりで休んでいる暇がない。
正直アラン・カミングの鼻筋が世界一美しいことばかりが頭に残っている……
『Endgame』(邦題:エンドゲーム、勝負の終わり)
こちらは家の外は世界が終わってしまったような家で、車椅子というよりもキャスター付きの椅子に座る盲目の主人と、彼に仕える使用人の青年、そしてドラム缶に入っている主人の父親とその伴侶が、外の世界に出ることもなく、ひたすらどん詰まりの中で話している作品である。
本当に世界の終わりのような、おしまいの世界でうっかり生き残っている人たちのような話だった。こちらは予習していたため、大体のことが分かってちょっと安心した。
車椅子に座るアラン・カミングの足が、本当に病人のように細くて、ちょっと前まで走り回っていたスーツ姿の人と一致しなくて混乱した。俳優って凄い…
ダニエル・ラドクリフが背の高い梯子を持って移動したり、振り回したり、登っては滑るように降りたりして、とにかく怪我をしないかハラハラしながら見ていた。ダニエルの役も、足が悪いという設定なので、引きずったまま歩いたり、かがんだりする様が凄かった。肉体を操るプロフェッショナルだよ、俳優……
終演後のステージドアでは、ダニエル・ラドクリフと再び*7会うことが出来た。
一方アラン・カミング*8は出てこなかった。恐らく一貫して出てこない人のようで、公演中にファンとのツーショットはネット上には見かけなかった。
主義が全く違いそうな二人が共演しているのがいいなと思った。
ちなみにこれがThe Old Vicのステージドアの写真。
この下に立っていると、出てくる人全員に「ダニエル・ラドクリフは此処には出てこないよ!*9」と言われる。ダンじゃない人を待ってたっていいじゃないか、といつも思う。けど同時に親切だなあとも思う。
ちなみに3年前、初めての一人旅をして、初めてThe Old Vicに訪れた時のレポは、こちらに寄稿した。私の観劇レポ以外にも、非常に面白い方々(ぽっぽアドベントの参加者もいる)の寄稿が読める上に、海外で観劇するにはどうしたらいいの?と言う疑問に全て答えてくれるようなガイドブックにもなっている。年末年始にどこかへ行きたい欲が募ってしまうことだけが短所かもしれないが、名著なのでまだ手に入れてない人は是非読んでほしい。
haru-ari-ca.booth.pm
他にも3つの作品を4回*10と、ポエトリーリーディングのチャリティーイベント*11に行き、終始マチネとソワレと二本立てを組んだような日程の旅は、無事に終了した。
しかし、帰国してから感染症に対する情勢は悪くなる一方だった。2月末には大規模のイベントを控えるように日本政府からのお達しがあり、バタバタと舞台やライブが中止、もしくは延期になっていった。
2月末に予定していたライブが延期になった。行こうかどうか迷っていた舞台は、行くかを決める前に中止になってしまった。
1ヶ月前のことが嘘のようだった。もう少し遅かったら、渡英自体を中止しなければならなかっただろう。幸運としか言いようがなかった。
3月、青天の霹靂
3月になると、一つの公演*12を除いて取っていたチケットたちがどんどん返金対象になっていった。
日々の状況が分からない毎日の中、朝Twitterでそのニュースが飛び込んできた。
3月16日の朝だった。
「The Old Vicが2週間の公演中止」
まだ『End Game』の公演中だった。2週間の休演、しかし最終日まで後2週間もない。つまり、これは公演中止の報せだった。
あの時の感覚は、今でも忘れられない。日本でもいくつもの公演が中止になり、数日前にはブロードウェイだって閉鎖が決定した。
報せを聞く前日には、本来だったらマチネに舞台を、そしてソワレにはライブに行く予定*13だったのに。どちらの中止も、仕方ないと思っていた。
それなのに、足元からすうっと、血の気の引くような思いをしたのは、この報せを聞いた時だけだ。
一ヶ月以上前のロンドンの様子を思い出す。あの時、感染症なんて無縁に近いような風景が、失われてしまった。
しかし、こんなにショックを受けているのは、ダニエル・ラドクリフの主演作だからなのだろうか?
他の人が主演の作品だったら、そこまで思ったのだろうか?
正直なところ、うまく想像出来ない。The Old Vicとの記憶は、ダンとの記憶と紐づいている部分が大きい。
1月27日から始まって、3月28日まで上演の予定があったものが、途中で断ち切られてしまった。あの時、初めて「最後まで公演が出来ない」という恐ろしさを、本当に味わった気がする。
次の日、ロンドンの全ての劇場の閉鎖が決まった。
The Old Vicはその先駆けだった。
4・5月、低迷
4月に緊急事態宣言が発令されてから、劇場はもちろん映画館も一時閉鎖が相次いだ。
また、自身にも色々あって*14、完全に低迷していた。
時間があるからゆっくりNetflixを観まくってついでに英語の勉強でもしな、と元同僚に言われていたものの、全くもって捗らなかった。
物語を受け取る元気も、気力も失われていた。
最低限、観ていたのは「おうちNT」こと、ナショナル・シアター・ライブの配信だった。これは本国のもので、16作の公演を1週間ずつ、無料でYouTube配信してくれるものだった。それも、頑張っていくつか…くらいしか観られなかった*15。
他は殆ど無理だった。あまりにも何もかもと、距離が遠かった。
The Old Vicでは、『Endgame』の次に上演する予定だった『4000 miles』も中止が決定した。ティモシー・シャラメの主演舞台である。これに行く予定だった人たちが涙を飲んでいた。ぽっぽアドベントに書いてくれた人にも、公演中止に涙を飲んでいた人たちがいた。ロッタさんやなっちさんの記事で嘆きが読める。
timmy-t.hatenablog.com
natsuki178.hatenablog.com
6月、再浮上
The Old Vicで、有料のストリーミング配信の上演が決定した。3ヶ月ぶりの公演である。
Old Vic : In Cameraと銘打たれた形式の無観客公演は、チケットを購入すれば世界中のどこからでも観劇が可能だった。日本でも観れるのは、素直に嬉しかった。
『Lungs』という、クレア・フォイとマット・スミスの二人芝居は、私にとって魅力的だった*16。
しかし、正直理解できるかは怪しかった。字幕は出るようだったが…
チケットは、保留にしていた。配信だし、すぐさま全公演売り切れるようなものではないと思っていた。そうしたら売り切れていた。
そのニュースから数日後、1週間だけ無料で配信された、The Old Vicが過去に上演していた『A Monster Calls』を観た。
これについては、19日のとばをさんの記事が詳しいのでこちらを参照してもらいたい。
privatter.net
実のところ、私は同じ原作の映画『怪物はささやく*17』を観ていたのだが、それがどうにもこうにも好きではなかった。
しかし、観てみようと思ったのは、公演当時、演出面での評判が非常に良かったからだった。気軽にロンドンに行けるのであれば、多分観に行っていたと思う。
予想に反して、舞台版『A Monster Calls』は私を直撃した。
演出が素晴らしかったが、ストーリーが映画で観た時よりもずっと、今の自分に寄り添ってくれているようだった。
映画版では、主人公の母と祖母の方にもフォーカスが当たりすぎて、ブレている感じがしたのだが、舞台では徹頭徹尾主人公にフォーカスされていたのが良かったのかもしれない。
観ている間、びしゃびしゃに泣いた。ちょっとびっくりするほど泣いていた。
この日を境に、映画や舞台に対して自分が無気力だったのが、嘘みたいに消えた。映画館はそろそろと市松模様を描きながらも再開し始めた頃だった。
そして、追加発売していた『Lungs』のチケットを買った。久々に買う舞台のチケットだった。
公演ギリギリに買ったせいで、高いチケットしか残っていなかった。
それでも、チケット代とは別に、ほんの少しだけ劇場への寄付をした。
7月、胎動
結論から書くと、『Lungs』を最後まで観れずに終わった。
『Lungs』はzoomによる配信だった。そして、なぜか画面が二分割されていた。これが恐ろしく観づらかった……
なんとか英語字幕は表示させたのだが、慣れない2画面に全く集中出来ず、割と序盤で観続けることを諦めた。
それでも、とりあえずチケットを買った、繋がった、というだけで、割と満足していた。
そして、Old Vic : In Cinemaの新作が決まった。アンドリュー・スコットの一人芝居『Three Kings』である。これは、発表されてすぐにチケットを買った。アンドリュー・スコットの一人芝居と言えば、名作『Sea Wall』を配信で観たので、これも絶対に観たかった。ただし、完全新作のために予習が出来なかったので、どこまで理解できるかは相変わらず怪しかったが……
そして購入時には、また少額ながらも寄付をした。
アンドリュー・スコットに関しては、10日のジジさんの記事が詳しいので、そちらを参照してもらいたい。
tak1-tam1.hatenablog.com
8月、予想外
アンドリュースコットの体調不良により、上演が延期になった。
感染症とは別の問題であるというアナウンスはあったが、どんな不調でも心配ではある。
最初は1週間後ろ倒しになると聞いて、「もっと休んで!?」と叫んだ。
そして結局、1ヶ月の延期になった。
人よ、具合が悪い時にはしっかりたっぷり休んでくれ*18。これは全人類に対する祈りである。
9月、怒涛
待ちに待った『Three Kings』の上演!
この日はTwitterの友人たちと「#エアロンドン」というハッシュタグを使って、実際にロンドンに行ったような行動を呟いていた。これがとてつもなく楽しかった。人によって、観劇のスケジュールは大きく違う。直前まで席につけない奴もいるし(私)、余裕を持って会場に着いて、まだ入れない…と立ち尽くしている人もいた。
作品自体も、とても面白かった!パトリックという名前の男が、自分の父親との記憶を辿っていく話だったが、三幕構成、三人の主要な登場人物、ととにかくタイトルに入っている3の数字にこだわっている作品で、これが見応えがあった。
そして、また次回作『Faith Healer』の発表と発売があったので、これも買った。
マイケル・シーンの主演作を観てみたかった*19。
このために、ブライアン・フリールの戯曲集も借りて予習もしてみた。
しかし、9月の後半に上演された『Faith Healer』は、自宅のネット環境があまりに酷くて、動画を観られる状態ではなかった。
画面には両手を広げて立つマイケル・シーンの静止画が映っており、声は途切れ途切れに一音ずつしか聞こえないのに、字幕だけがサラサラと流れていくという有様だった。ネットを弄ろうがどうしようとも無理だった。あっさり断念した。
10月、無念
ナショナル・シアター・ライブ・ジャパンで『プレゼント・ラフター』の上映が始まった。が、上映期間中、ガタガタに体調が悪くて行けなかった。涙を飲んで断念。
ところでアンドリュー・スコットとThe Old Vic、よく考えたら2年連続で公演している。最早コラボしている*20と言っても差し支えない。
11月、機会到来
再びのIn Cameraシリーズで『クリスマス・キャロル』の上演が決まった。
しかも主演はアンドリュー・リンカーン*21!
これもホイホイとチケットを買った。寄付も忘れずにした。
オリヴィエ賞受賞記念で、『プレゼント・ラフター』が1日だけ再上映されることが決まった。
どうしても観たくて観に行った。
いやー流石オリヴィエ賞主演男優賞受賞者ですわ…という貫禄とキュートが詰まっており、最高だった。なんだったんだあれは。
NTLは始まる前に劇場前で解説が行われたり、次回作のアナウンスや関係者のインタビューが挟まることが多い。
例にも漏れず今回もそうで、The Old Vicの外観が映った。
それを観た瞬間、訳も分からず泣き出してしまった。
お陰で関係者のインタビューを若干聞き逃した。
それくらい動揺して、泣いていたのだった。
問題なく上演が行われていた劇場の元気な姿に、どうしても気持ちが抑えられなかった。
始まる直前のステージも、前列の観客の頭が映って、あの場所を思い出してまためそめそしていた。
始まった瞬間から面白くてすぐに涙は引っ込んだのだが…
12月、二度あることは三度ある
こうして待ち望んでいた『クリスマス・キャロル』だったが、今度は家のWi-Fiが完全に死んでしまい、もうなす術がなかった。私の住む地域で、土曜日の夜にzoomを観ようとしてはいけないのかもしれない。
予想していた人もいたかもしれないが、結局私はIn Cameraシリーズの4作のうち、まともに観れたのは1回だけなのだった。
来年、Playbackと称したリバイバルをやるらしいので、そこでチャレンジしてみたい。
こうやって観れなくてもいいや、という気持ちでチケットを買っていたのは、3月の公演中止の時に、Old Vicがかなり逼迫した状況だと訴えていたことと関係している。
Old Vicは、国の助成金を受けていない劇場だ。なので、上演をやめることは、劇場の終わりに直結する。202年続いていた劇場のことをちゃんと知ったのはたった3年前だけれど、惜しいと思う。
それでも、こんなに折に触れては思い出し、寄付をし、元気な姿に涙する、そんな場所になっているとは、自分の中でも意外だった。
好きな映画館*22も、劇場*23も、日本に沢山存在している筈なのに。
それでもあの遠い遠いロンドンで、煌々と公演作品のタイトルを光らせていて欲しいと願う。あれはきっと、私の心の灯台なのだ。いつまでもそこにあって、演劇を提供することによって照し続けていて欲しい。勝手な思いを託しているのは百も承知だが、それでもそう思わずにはいられない。
そのために、自分の出来る範囲で寄付を続けていきたい。(結構限界が近くなって参りましたが……)
また、まずは自分の生活をままならない状態から脱出もしたいし、現状の社会も変えていきたい。
そうしていつか、今は無理でも、いつになるかは分からないけれど、また絶対に、再びあそこに戻るのだ。
この話を書いていて、お名前を出すのは少々恥ずかしいのだが、岸本佐知子さんの『死ぬまでに生きたい海』というエッセイが頭の片隅にずっとあった。
どちらかというと本編ではなく、連動して行われている
Twitterでの企画の方である。この記事も、遠い場所の記憶の一つだ。ボトルに詰めて流すように、ネットの海に放流してる気持ちになる。
果てしなく続くかと思われたぽっぽアドベントも、ようやく最終日を迎えました。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
この企画を主催したことに対して、どうしても私に何かお返しがしたいという奇特な方がいらっしゃったので、もし何かあればアマゾンギフト券でも送ってください。
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ほしいものリストも作ってみました。折角なので、富豪の方、大歓迎です。
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まあいやいやそんな余裕ないっすよ、という人は記事やアドベントの企画をRTしたり拡散してくれればそれだけでも十分嬉しいですので、あんまりお気になさらず。
何か仕事紹介してくれる人がいればそれも歓迎です!よろしく!
しかしそれにしても、アドベント企画なんだしアドベントっぽいことを記事内でしてみよう、と思い至ってバーティミアス*24じみたことをしてしまった。そうです、脚注が本来のアドベントカレンダーに沿って24個あります。全て読み飛ばしていいかなあと思いながら書いていました。開いたり開かなかったり読んだり読まなかったりしてね。こういうことをしているから遅刻するんだよっていうのは重々承知している。
しかし遠い場所にまた行きたい、変わってしまった世界からどうにかしたい、という気持ちにぴったりな映画がなんとお正月から公開です。『新感染半島 ファイナル・ステージ』(原題:半島)よろしくお願いします。既に観てますが本気のイチオシです。
一部の劇場ではもう公開が始まってるようなので、気になる方は駆け込みに行ってください。私は年始にIMAXで観たい。
gaga.ne.jp
ムビチケはここから買える。買わなくても映画の日とか都合のいい日に観に行ったりしてくれ。
mvtk.jp
それでは、ハッピーホリデー!