演劇観た帰りに書くもんじゃない。なんなら演劇の感想を書いた方がいいと思うのだが、夜の下北沢には文化的な人間ばっかで、新宿とか渋谷ばっかり歩いてる人間からすると、雰囲気がやっぱり全然違うなと思います。
邦楽バンド、下北沢のライブハウスから出てきて…というグループが多いと思いますが(ストレイテナーとか)、フラッドは新宿のバンドだと思ってるので、ちょっと違うのかしらと思いつつ、いや下北でもライブしてただろ、初期の頃は知らんけど、と思っています。
ボーカルの佐々木は今も読書家だと思うのだけれど、彼が今よりもっと文学青年だった頃、インディーズ時代の曲を紹介したい。
夜はけむり
一番最初の、インディーズ時代のファースト・アルバムに収録されている曲。フラッドは優しいので、去年インディーズ時代に出していたアルバム2枚もサブスクで聞けるようにしてくれた。お陰で紹介出来るってもんだ。ライブの定番曲ならまだしも、ライブでもなかなか聞くことが叶わない曲の一つな気がする。リアルで聞いたこと、もしかしたらないかも……再現ライブ、具合悪くなって飛ばしたという最悪の思い出があるので……
フラッドを好きになってすぐの頃、まだ沢山アルバムがなかったので、インディーズ時代の2枚もめちゃくちゃ聴き込んでいた。お陰でこのアルバムに入ってる曲、正直全部好きなのだけれど、これぞ好きなやつ!という一曲である。
ドラムスタートで割と静かな入りで、イントロが30秒以上あるのもちょっと昔の曲っぽい。何度も繰り返される「熱帯夜の街」というフレーズの箇所で、演奏が一瞬止まるのが好き。
そこからちょっと変化がうまれる「だってまだ」辺り(Bメロなのか?)のギターのフレーズがめちゃくちゃ好きで……これがベタなのか捻りの効いたものなのか分からないのだが、サビ前までは正直歌よりもこのメロディーを聴いてしまう。1週間もこのアドベントに付き合ってきた人ならお察しの通りという感じだが、私は基本的にフラッドの歌詞が好きなので、歌にまず注目しがちなのだが、この曲は珍しくギターをめちゃくちゃ聴いている。いや、歌詞も大好きなのだけれど。
昔の曲なので、AメロBメロサビCメロサビみたいな構成が最早懐かしい。5分近くあるのも歴史を感じる。
サビに多用されるコーラスも大好き。基本的にフラッドのコーラスはドラムのなべちゃんがやっていることが多いのだが、私はなべちゃんのコーラスが大好きで大好きで、コーラス曲あると喜んでしまう。
それにしても、全編に渡ってめちゃくちゃザ・文学青年の書いた曲だなって感じがめちゃくちゃ好きでたまらない。「黒塗りのカバーの哲学書」ときた後に「人間的に、あまりにも人間的に」とニーチェの引用してくる辺りとかたまらないんだよ!
他にも
命を削って石を売るような人が世界を回す
とかも、宝石と紛争と経済の隠喩だと思ってるんだけど、こんな言い回しするんだ!?みたいな歌詞に痺れている。昔から、今もずっとそうだ。
初期の9mmとかもそうなんだけど、内省的な歌詞がきっかけで好きになることが多く、例に漏れずフラッドもそうだった。バンドやってる方からしたら初期過ぎる曲ってやめてくれって思われるかもしれないけど(正直どうなんだろうね?)、こういう初期衝動が好きで、それがどう変化していくかまでもが楽しめるのでずっと大事にしててほしいし、長くバンドを続けてほしい。
歌詞を聞けば分かるのだけれど、熱帯夜と言ってるので夏の夜の歌なのだと思う。茹だるような夏の暑さにやられ、ズブロッカというポーランドの酒を飲んで更に酩酊し、湿度の高さに頭がぼんやりしているうちに、街が丸ごと夜のけむりの中で揺蕩うような曲だ。
なので夏に聴くのが一等良いと思うのだけれども、息が白くなるこの時期の夜に聴くのも同じくらいおすすめだ。ぼんやりしながらこの曲を聴くと、煙に巻かれているような気持ちになれる。「天国のドアを閉め忘れたら溶け出してくチョコレート」という一文が、なんとなく冬っぽさを思い起こさせるのかもしれない。結局何だったんだと思いつつ、何度もリピートしたくなる。お願いだから生で聴きたい。来年1月にFC向けの「レア曲ナイト」というイベントで、この曲が演奏されることを心から祈っている。