熱に羽化されて

好きすぎてこじらせたうわ言や思考の整理など

マンガ『琥珀の夢で酔いましょう』を大プッシュしたい話

※ブログを読んでほしい気持ちは山々ですが、現時点でまだ投票に行っていない有権者は先に投票を済ませてきてからこのブログを読んでください。まだ?最後に候補者をどう選んだらいいかとか書いたので先にここを読んで。もう行った?では続きをどうぞ。ただ、ビールが好きな人はお手元にビールを用意してからでもいいかも。

 

三度の飯と読書が好きだ。大体同じくらい好きだと思う。時折のめり込むと食事のことを忘れがちになるが、基本的に食い意地が張っており、たまに外へ出かける時は出来るだけ美味しい店を探しがちだ。飲むのも結構好きだ。最近は飲む機会が激減しており、アルコールにも弱くなっている気がするが、ビールは気兼ねなく飲めることが多い。そんな食欲旺盛な本の虫が、今全力でお薦めしたい漫画が『琥珀の夢に酔いましょう』(通称:こは酔い)だ。

 

magcomi.com

公式サイトでは現在1、2、26話が読める。

きっかけは、フォロイーさんからの熱烈なお薦めだった。21話が無料公開されたタイミングで、わざわざDMでこの話からでも読めることと、

「いやまじこれはとさんに読んでほしくって!」

と強烈な一言を頂いたので、それなら無料だし絵柄も好みそうだし読んでみるかとページにアクセスしたのがきっかけだ。(ドラマには腰が重くてごめん友人各位…)

当時公開されていた「恋はビール、タップ、サービング」(単行本5巻収録)を読んでみた。友人は私のことをよく心得ていると言っていい、めちゃくちゃ好きな話だった。「白熊」と言うクラフトビール専門店に、初めてそういう場所に行ってみる社会人と大学生の話だったのだが、まあこの30ページちょいによくこれだけ詰め込んだな!と言う話だった。飛び交う実在のビールの名前と丁寧な解説、年上のちょっとした見栄っ張り、それを受け止めるような度量と美味しそうな料理たち。そして「初めて」の経験の楽しさが幾重に重なり、そんな展開になるのかとひっくり返った。
ついでに言うと、作中の台詞に「男ならプラバース*1、女ならファサ*2が俺の理想…」という台詞に痺れたのだった。『バーフバリ』とMAMAMOOをこれを言わせる人の書く話、絶対好きやんけ。

「続きは!? つーかビール飲みたいんだが!?」これが真っ先に出た感想だった。これが当時の最新話だったので、とにかくこれまでのことを知るべしと思ってすぐに単行本を買った。

あらすじ

京都の広告代理店に派遣で働いている剣崎七菜は、仕事を正当に評価されないことに疲れて路地裏にあるお店に迷い込む。開業したばかりのその店は、店主が1人きりで切り盛りするもごちゃついているし寒いし、ビールしか飲み物はないし店内にはカメラマンというなんだかスカした男性客が1人だけ。ハズレを引いたと凹んでいたが、思いがけず飲んだクラフトビールと美味しいご飯で意気投合。ビールは苦手だったのにこれなら好きかも、と七菜が驚いていると店主から「2人にこの店のアドバイザーになってほしい」と言われ……


という、「白熊」という店を中心に、そこに集まる人たちを巡る群像劇である。メインの3人である剣崎七菜、カメラマンの芦刈鉄雄、店主の野波隆一が、閑古鳥の鳴く店をなんとかするべく走り回ったりビールを飲んだり美味しいものを食べたり人間関係に悩んだりビールを飲んだりイベントをやったりビールを飲んだりする。
この3人がいい距離感でお店を成長させていく様子が心地よい。隆一は白熊が本職だが、他の2人は本業が別にあり、そちらでも奮闘している様子が窺える。
ビールを題材として扱っており、それが好きな部分もあるけれど、やっぱりこの漫画はキャラクターの描き方や人間関係が好きだな…と思う。ここに出てくる人の多くは日々理不尽にぶつかって、怒って、それでも尚糸口を見つけようと日々もがいている。それが実を結ばれた時、最高の気持ちと共にあるビール!美味さ増し増しだよね、というのがこれでもかと伝わってくる。


一方でこの話がいいと思うのは、割と登場人物が失敗するところでもある。こういう話ってほっこり人間関係、でまとめられがちでそれはそれで好きなのだけれど、なんでもかんでもうまくいくわけではない。ぐわーやるぞ!と気合十分、絶対いける!と思ってたことが次の話であっさりと叶わなくなることもしばしば。現実を感じてしまってほろ苦い…物語の中でくらいうまく行ってくれよ…と思うけれど、それでもしっかりガッツリ凹んでから、またやるしかないなと顔を上げて歩き出すのがとても好きなのだ。そういう出来事がひっきりなしにやってくるけれど、この人たちは次はどうするんだろう?と思いながら読んでいる。


また、ビールを軸に進んでいるけれど、派遣やフリーランスの辛さ、男女の格差などの社会問題を真っ向から描いてくる。それが主題になる話もあるし、さりげなくだけれどきっちり描いてくれる塩梅が上手だ。ストーリー自体が人間模様のぶつかり合いみたいなところがあるので、ここもやっぱり理解し合えない人が出てくることもある。それでも尚、見過ごされそうなことも掬い上げてくれるのがこの物語である。

 

そして当然ながら主軸であるビールの輝きも素晴らしい。
京都の地ビールを始めとした、数々のクラフトビール、しかも実在している!物によってはコンビニでも買えるし、オンラインストアの取り扱いもある。一方で、現地に行かないと飲めなさそうなものも多数あり、この辺りは入念な取材によって描かれているのを感じる。なんせこの作品、原作と作画の他に「監修」がついている。何って勿論ビールの。話の最後には毎回取り上げたビールや食べ物についてのコラムが載っている。かなり本格派だ。ビールは勿論、「ビールに合う食べ物」もまあこれでもかと繰り出される。空腹時に読むのは非常によくない作品である。割と食欲を忘れて本に没頭しがちな私だが、あまりにも美味しそうな描写に「ちょっと待って、私も食べたい」と一旦休憩することがある。モノクロなのにビールの色合いや焼き加減の描写が綺麗で美味しそうなんだよお!今書いてて思い出してるだけなのにビール飲みたくなってきた。ああ……

 

一方で、ビールを飲まない人、苦手な人にもとても優しい。無理して飲めよ!という描写が一切ないのは勿論、ビールを飲まない人もその場から取りこぼさないようにする努力が窺える。この問題を真正面から取り扱ったエピソードがあるので、是非読んでみてほしい。
また、アルコールの恐ろしさもきっちり描いている。2話の時点で暑い日にやってきたのに、まず飲むのは水、と描いてくる。急性アルコール中毒にならないようにという注意が、かなり頻繁に、しかし話を腰を折らないように差し込まれている。とりあえず水も飲んどこうか、暑いから回るの早くなるから気をつけて、とアルコールをメインにしていて、かつこうも水を飲む描写や注意を書き連ねている作品を、私は他に知らない。(もしあったら教えて!)
これはすごく大事なことだと思う。私だって飲むのは大好きだが、飲み過ぎれば具合が悪くなることもあるし、依存性のあるものだ。無責任にビールが美味しいというだけでなく、アルコールの怖い部分や、それを利用した恐ろしいことにまでも触れているエピソードがある。

 

更に、舞台が京都なので、京都の文化自体にも触れている。私は人生の殆どを関東で過ごしており、修学旅行以外で京都に行ったことがない人間なので、こういう所も面白く読んでいる。時折TLで流れてくる水無月ってこれか、と最近合点がいったくらいなので…勿論登場人物は京都が地元の人は勿論、地域や国を超えてさまざまな場所から集まってきている。京都に限らずご当地の話も沢山出てくるので楽しい。私はハワイ回が好きです。


後、作者たちが絶対映画好きなので、映画好きはニヤリとできるオマージュのイラストや、マブリーやら見知った単語が盛りだくさんだよ!私はここもおすすめポイントだよ!


ここまで長々と書いたのだけれども、最終的にはもう「読んでくれ!!!!!!」しかないので読んでほしい。たった5巻だから、ね、お願いだよ…
ちなみに最初に紹介したマックガーデンのオンラインサイトでは、今だと単行本のすぐ続きの話まで読める。
そして、面白かったら今やっている「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門に投票してほしい。今回がノミネートのラストチャンスだそうなので…明日の7/11(月)AM11:00までなのでよろしくどうぞ。ちなみにWeb漫画部門にはこの作品と類似性の多い「つくりたい女と食べたい女」もノミネートされてるよ!

tsugimanga.jp

ただし、この投票の前にもう一つ大事な投票がある。
このブログをアップしている時点で投票出来る残り時間が後1時間くらいしかないが、まだ投票に行っていない有権者は、是非今回の参議院選挙に行ってほしい。好きなものや人気キャラを決める投票は数あれど、これ以上大事な投票ははっきり言ってない。
今与党が進めているインボイス制度は、日本の大多数のマンガ家に打撃を与える制度なので、色んなマンガを沢山読みたい人や、推しマンガ家がいる人は特に行って自分の意見を反映してくれる人を選ぶことをおすすめする。党議拘束という、党内で進めている物に対して反対意見を持っていても、党の意見に賛成しろという制度があるので、個人では反対していても、党としては賛成しか出せなかったりするので気をつけて。

投票用紙をなくしていても本人確認が出来れば大丈夫なので、手ぶらでも是非。どこに入れたらいいのか分からない人は、以下のサイトで自分と似た考えの党の人に入れるといいと思う。

t.co

 

有権者の人、投票行った?行ったら帰りに外食してもいいし(またコロナが流行っているのに注意するに越したことはない)、ビール買ってお家で飲みながら「こは酔い」読んでも楽しい。全ての人が住みやすくなる未来が来てほしいと強く思えるマンガなので。それではよい日曜の夜を。

1巻表紙



*1:恐らくインドの俳優、プラバースのこと。映画『バーフバリ』シリーズの主演を務めている。孫とは全く似ていない

*2:恐らく韓国のアイドル「MAMAMOO」のメンバー、ファサのこと。ハチャメチャイケてる。孫とは似ていない。